「生前贈与(せいぜんぞうよ)」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
しかし、多くの方とお話しする中で感じるのは、「名前は知っているけれど、具体的な制度や正しい選び方まで知っている人はとても少ない」という厳しい現実です。
特に普段、税理士と関わる機会がない会社員の方の場合、
- 「生前贈与なんて、お金持ちがやる節税でしょ?」
- 「うちの親は実家と少しの貯金くらいしかないから関係ないはず」
と、無意識のうちに自分には関係ないと思い込んでいるケースが非常に多く見られます。
しかし、ここにとてつもなく大きな落とし穴があります。制度を正しく理解し、親が元気なうちから適切な形で生前贈与を受けておくことは、将来発生する相続税の負担を劇的に軽くする最大の防衛策になるからです。
特に2024年(令和6年)1月からの大改正により、これまでの「とりあえず毎年110万円ずつ手渡しておけば安心」という昔の常識が通用しなくなりました。
この記事では、2024年以降の新しい生前贈与のルールと、損をしないための「2つの選択肢(ルート)」を分かりやすく解説します。
なぜ今「普通の会社員家庭」こそ生前贈与を気にすべきなのか?
「うちの親はごく普通のサラリーマンだったから、相続税なんてかからないよ」と思っていませんか?
実は昔に比べて相続税のボーダーライン(基礎控除額)が引き下げられたため、「都心郊外に一戸建ての実家がある」「退職金と少しの預貯金がある」というごく一般的な家庭でも、親が亡くなったあとに相続税が発生するケースが急増しています。
今の段階で「知らない」ままでいると、後々ご家族が数十万〜数百万円単位の余計な税金を払う「取り返しのつかない大損」につながるリスクがあります。
生前贈与の新ルールを味方につけるために、まずは用意されている「2つのルート」を正しく理解していきましょう。
大改正で激変!絶対に知っておくべき「生前贈与」2つのルート
生前贈与には大きく分けて2つの方法があり、どちらを選ぶかで将来の税金が大きく変わります。
① 暦年贈与(れきねんぞうよ):持ち戻しが「7年」へ延長!
1つ目は、最も馴染みのある「暦年贈与(れきねんぞうよ)」です。
年間110万円までの贈与なら税金がかからず、それを超えた金額に対してのみ贈与税を支払うというシンプルな仕組みです。
「じゃあ、毎年110万円ずつコツコツ子供に渡していけば安心だね!」と思いがちですが、ここに「生前贈与加算(持ち戻し)」という恐ろしいルールが存在します。
生前贈与加算(持ち戻し)とは?
相続が発生した際、「亡くなる直前に渡した財産は、なかったことにして亡くなった日の財産に足し戻して相続税を計算し直す」というルールです。
この「過去にさかのぼる期間」が、2024年の改正で大幅に延長されました。
- 2023年までの贈与:亡くなった日から過去 「3年以内」 の贈与が対象
- 2024年以降の贈与:亡くなった日から過去 「7年以内」 の贈与が対象
さかのぼる期間が3年から「7年」へと倍以上に延びたことで、親の高齢化や健康状態を心配してからあわてて暦年贈与を始めても、「亡くなる前7年間の贈与はすべて相続税の対象に戻され、1円の節税にもならなかった」という可能性が高くなってしまったのです。
② 相続時精算課税(そうぞくじせいさんかぜい)制度:年110万円の「新・非課税枠」が誕生!
暦年贈与が「実質的な厳格化」となった一方で、劇的な進化を遂げたのが「相続時精算課税制度」です。
この制度は、「2,500万円までの贈与なら今は税金(贈与税)を1円も払わなくていいよ。その代わり、将来相続が起きたときにまとめて精算しようね」という仕組みです。
これまでは「過去にさかのぼって全額持ち戻しされる」ため使いづらい制度でしたが、2024年の新ルールで「年110万円の基礎控除(非課税枠)」が新しく創設されました!
新ルールのここがすごい!
- 毎年110万円までの贈与なら申告不要で税金もゼロ
- 将来相続が起きた時も、毎年110万円以下の部分は「一生分」さかのぼって持ち戻されることがない(完全に非課税!)
つまり、「毎年110万円ぴったり(またはそれ以下)をこの制度で贈与する」と決めて使えば、10年・20年と続けても、将来の相続税計算に1円も持ち戻されることがありません。
| 項目 | ① 暦年贈与(れきねんぞうよ) | ② 相続時精算課税制度(新ルール) |
| 年間の非課税枠 | 110万円 | 110万円(新設!) |
| 相続発生時の持ち戻し期間 | 亡くなる前 7年間 | 持ち戻しなし(年110万円以下の部分) |
| 持ち戻される金額 | 110万円枠も含めた 全額 | 110万円を 控除した後の残額のみ |
| 注意点 | 相続直前の贈与は節税にならない | 一度選ぶと暦年贈与へ戻せない |
【超重要】孫への贈与は「暦年贈与」が圧倒的にお得!
ここで多くの方が疑問に思うのが「孫への贈与はどうすればいいの?」ということです。
結論から言うと、孫への生前贈与は「① 暦年贈与」で行うのがベストです。
なぜなら、先ほど説明した「亡くなる前7年間の持ち戻しルール」が適用されるのは、原則として遺産を受け取る「相続人(子や配偶者など)」だけだからです。
孫は原則として相続人にはならないため(※遺言で財産を残す場合などを除く)、亡くなる直前に孫へ110万円を暦年贈与しても、7年持ち戻しの対象にはならず、そのまま節税効果を発揮します。
むしろ相続税精算課税を選択してしまうと相続税の申告を行う必要が出てきてしまうため、注意してください。
【注意】相続時精算課税制度は「後戻り不可」
新・相続時精算課税制度は非常に魅力的な制度ですが、税理士として絶対にお伝えしておきたい注意点があります。
それは、この制度を一度選択すると、二度と「暦年贈与」には戻せないということです。
「やっぱり来年からは普通の暦年贈与にしよう」ということは一切できません。親が亡くなるまで、ずっとこの制度と付き合っていくことになります。
我が家はどちらを選ぶべき?
生前贈与の戦略として、以下のような組み立て方が考えられます。
- 親がまだ若く元気な時期 ➔ 持ち戻し期間を気にせずコツコツ渡せる「暦年贈与」でスタート
- 親が高齢になってきたタイミング ➔ 7年持ち戻しのリスクを避けるため「相続時精算課税制度」に切り替える
最初から焦って精算課税を選ぶのではなく、親の年齢や健康状態に合わせて時期を見極めることが成功の鍵となります。
まとめ
2024年の税制改正によって、生前贈与の常識はガラリと変わりました。
- 暦年贈与は持ち戻しが「7年」に延びたため、駆け込み贈与が効かなくなった
- 相続時精算課税制度は「年110万円枠」ができて非常に使いやすくなった
- 孫への贈与は持ち戻しがない「暦年贈与」を継続するのがおすすめ
- 相続時精算課税制度は一度選ぶと戻せないため、時期の見極めが重要

相続時精算課税制度にも基礎控除ができたのはかなり大きな改正となります。今後は精算課税を選択する人も増えてくると予想されます。
しかし、一度選択したら取り消すことはできません。
相続時精算課税制度を選択する際はしっかり検討して手続きを進めてください。






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